『狂った太陽』

 

オススメ度:90

 

91年発表の6th。

静かな狂気、頽廃と過敏な自意識がせめぎ合う詩世界と

デジタル/インダストリアルポップの融合が始まった記念碑的作品。

 

印象的なGフレーズで幕を開ける「スピード」で始まり、

ハイテンポな「MACHINE」までは完全なポップサイド。

ビートロックバンドとしての彼らの挑発はしかし3曲目

「My Funny Valentine」の舞踏的リズムに乗って唐突に暗転する。

 

緊迫感を保ったまま最初のハイライト「変身[REBORN]」、

孤独を謳う静謐なシンフォニー「JUPITER」、開放感を感じさせて

束の間の安息が味わえる「Brain,Whisper,Head,Hate is Noise」は

実は禍々しい暗喩に満ちた喪失礼賛である。

さらに特筆すべきは「MAD」以降、「太陽ニ殺サレタ」までの3曲で、

側面性を無視したいささかやり過ぎと思えるほどに直截的な耽美と

緊張感に満ちた頽廃が詰まっている。

 

本作以降、『BUCK-TICK』は解り易いフォームを形成せずに

様々な音楽的エッセンスを貪欲に吸収・変化しながらも、

同時に停滞のタナトスに満ち、なおかつポップであるという

危険な三位一体、創作における快楽主義への嗜好を強めていく。

ストレートでシンプルなビートロックバンドとしての『BUCK-TICK』は

本作で”間断の無い進化”と言う底無しの深い穴、

光無き空に浮かぶ黒い太陽に、文字通り殺されたのである。

 

『スピード』

シャッフルと微弱なビブラートの挑発。

しかし相変わらず狂気はBUCK-TICKの占有物で、

そのまま一緒に溺れきってしまうには

「キミハスコシマトモ」なのだ。

ズレてしまう世界を

その差異故に愛する人間のための

最初の独占宣言。

 

『machine』

独白。

信じるものは破壊衝動とアドレナリン。

滑らかなガラスに突き立てられる爪。

平衡を失った精神を覗く無遠慮なモニター。

 

『my funny valentine』

誰もが体験する「幼年期の終わり」、

帰還の誘惑にせかされて

湿ったマテリアルの季節がゆっくりと幕を開ける。

 

底なしの重力と制御不可能の衝動に囚われたまま

失墜する姿と、それを見つめる残酷で解剖的な視線。

 

『変身「REBORN」』

狂気を満たすために正気を見極める切実で誠実な被虐趣味。

 

嫌悪の手のひらの隙間から覗く見世物小屋の真っ赤な明かり、

微温を発する真紅の母胎と魅惑的に重い足枷。

欺瞞を守る薄明かりの世界に暗く沈みこんだまま花開く

ナルシスだけに許されたマゾヒズム。

 

『エンジェルフィッシュ』

BUCK-TICKお得意の歪んでいるのに優雅なダンス。

踊り手は平気な顔で裂け目の大きさを見せながら

その傷の知られたくない不自然な深さを隠すのに懸命である。

 

『JUPITER』

印象派の絵画を思わせる朦朧とした点描。

一つ一つのタッチは見事なほどに空虚で

細密な説明を拒否せざるを得ないほど象徴的。

 

『さくら』

信仰告白に見せかけた大胆な異端偏愛。

望みどおりの絶ちがたい同一化。

 

「海が枯れたら愛と笑う」

つまり承認に見せかけた断固たる「連続」の拒否と

彼らの真の安息の場所、刹那主義への帰依。

 

『Brain,Whisper,Head,Hate is noise』

絶頂は皮膚の中、

中枢神経を満たす錯乱のまばゆい輝き。

解放の始まりを告げる恐るべき沈黙。

不自然に穏やかな星空には嵐の気配。

 

『MAD』

独占の最終段階へ、まずは沈滞と回帰のプロセス。

孤独、星、太陽、鼓動、子守唄。

逸脱の鍵は全て懐かしい子宮の中にある。

初対面に似た二度目の邂逅は根本的で執拗な懐疑のために

相互理解を厭うたままの圧迫と近接に辿り着く。

衝動に身を任せた加害者、加害者と未分明の被害者。

 

『地下室のメロディー』

妄動のプロセス。

被害者は自らが被害者だと表明する事で加害者になり、

加害者になる事でようやく精神的な優位を保つ。

分化しないナルシシズム、

差異の無さの確認による自己肯定、

加害者に化けて高みからの徹底した自己破壊、

無意識でオートマティックな自虐の増殖。

 

閉じた世界に特有のあてどもない疾走、

力尽きるまで無限のループ。

 

『太陽ニ殺サレタ』

独占の完成、即ち孤独な仮面劇。

意志の疎通も存在確認も拒否して

ようやく孤独になれたはずの踊り手の耳に、

聞こえてくるのは忌まわしき圧倒的な賞賛の声。

 

突き動かされる恐怖と隷属の恍惚に悲鳴をあげた瞬間

影絵芝居は幕を閉じ、

完璧な被害者、つまり忠実な聴き手の誕生。