Schwarz Stein

 

『アリスの変貌』

 

門を開くと、そこは少年と少女のいる庭。

 

絵を描きあげた少年が

モデルになってくれた少女に

こわごわと画布を披露しています。

 

少女に恋をした少年は

ようやく習い覚えた絵筆で少女を喜ばせようと

彼女の小さな肖像画を描いたのでした。

優しく開かれた神秘的な瞳、

スッと通った鼻筋、

意志の強さを思わせる固く閉じられた唇、

細く優美な曲線を描く顎。

 

幕を取り除かれたキャンバスから

少女の瞳に写ったのは

自分に瓜二つの、

でも自分で思う自分とは似ても似つかない

グロテスクな姿。

やぶにらみの瞳、

人目を惹かない凡庸な鼻筋、

外界を拒絶するかのように閉じられた薄い唇、

肉付きが悪くて不健康な顎。

 

少女は一瞬とまどい、

とっさに足元の小枝を拾い上げると

悪さをした子犬を追い立てるように、

少年を打ち据えようと追いかけました。

 

鞭に追い立てられた少年は悲鳴をあげて逃げまわり

色とりどりの花を蹴散らして走ります。

 

ひいらぎに服を裂かれ

さるすべりに足をくじかれ

すすきの葉に皮膚を切られ

野薔薇の棘に血の管を覗かれ

息も絶え絶えになってぐるぐると庭を駆け回る少年は

ついに足をもつれさせ

自分を追いかけてくる少女の姿を

瞳の片隅に焼き付けながら

庭の中央に転がり倒れるのです。

 

ゆっくりと歩み寄った少女の腕から

白いシャツの裂け目を縫って

少年の身体にいびつな小枝が振り下ろされます。

 

枯れ朽ちかけた小枝は少女のための小さな鞭となり

服の奥から皮膚を呼び出し、

皮膚の奥から血を呼び出し、

少女の奥から彼女を呼び出し。

 

倒れた少年を打ち据えるのに飽きた少女は

庭の片隅のキャンバスに目を留めると

まだ新しい血の香りの漂う小枝を

少年の描きあげた作品に

間断なく振り下ろし

跳ね上がる血を

微かに覗く

舌先に

 

やがて少女は庭の片隅のベンチで

初めて手にした鞭を所在無く放り出し

気を失った少年の裸体と

乾いた血で彩られた美しい肖像画を無心に眺めながら

いつしかそのまま倒れ伏し

茫とした、まどろみの世界に溶けていくのでした。